エッセイ集(朝の食卓)

横浜育ちのヨメ・りえが、森田農場に農家の嫁として暮らし始めてからの想いを、つづりました。

北海道新聞に2005年1月から2006年12月まで連載したエッセイに、加筆・修正したものです。)

「粘り」


「農業をやる上で一番大切なのは、『粘り』だよ。寒かったり暑かったり、虫が出たり、作物が思うように育たないことがあっても、あきらめずに、粘り強くやっていれば、必ず報われる。」

昨年の春、農業歴五十年の義父が、農業を継ぐことにした私たち夫婦に語った言葉だ。

聞いたときはピンとこなかったけれども、春から秋まで、義父母の背中を追って畑に出ているうちに、草一本、イモ一個、豆一サヤもおろそかにしない二人の姿から、その意味を肌で感じるようになった。

時給にすると割に合わないような、時として不効率に思えるその姿。


自分なりに言い換えれば、「生命の恵みで生かしてもらっている者は、生命をおろそかにしてはならない。生命を大切にしていれば、人間の力では成し得ない大きな恵みを受けることができる」ということだろうか。

札幌という、いわゆる都会(マチ)で暮らしていた頃を振り返ると、時間に追われ、効率的に毎日をこなすことが最優先で、食べることはおそろかになっていた。

どこで暮らそうとも、たくさんの生命の恵みに生かされている私たち。

そのことを忘れると、いつか大きなしっぺがえしがくるような気がしてならない。

このところ、過去では考えられないような天災・人災が増えているのも一端ではないか。


粘り強く食べよう。 粘り強く生きよう。

そして、その姿を未来の子ども達に伝えよう。

粘り強く。

それが今年の私の決意である。


(2005年1月)

「農民管弦楽団」

「ターラーラー♪」(ホルンを吹く)、隣から「メエエ〜♪」。

「ターラー…」(うまく吹けない!)、また「メエ〜!」(暴れる)

旧牛舎の片隅でヤギのハナコを聴衆に、北海道農民管弦楽団(通称:農民オケ)の演奏会に向け練習をしていると、音感の良い彼女は、上手に吹くと嬉しそう、音を外すとイライラする。

動物に音楽の喜びを学ぶとは、まるで宮澤賢治「セロ弾きのゴーシュ」の世界だ。

農民オケは、その宮澤賢治「農民芸術概論」の影響を受け、余市町で有機果樹園を営む牧野時夫さんの呼びかけで平成5年に農家メンバーを中心に結成された。


年に一回冬の農閑期に全道から集うメンバーには、春夏秋と農業に取り組んだ者の誇りと親近感がある。

農業とクラシック音楽は不思議な組合せのように思えるが、天候に左右される哀しみ、芽吹いた作物への慈しみや実りの悦びなど言葉で表しきれない感情がクラシックの旋律と共鳴することに気づき、私もいつしかその魅力にはまっていた。

演奏会は、2005年1月10日に札幌コンサートホールキタラで開催された。多くの方々のご協力に支えられ、満員の聴衆で埋まった大ホールで皆と演奏できる悦びをかみしめながら無事に終了した。

ヤギのハナコにも聴かせてあげたかった、と思っていたのは私だけかもしれないけれど。


(2005年2月)

「ふるさとの味」

「ねえねえ、私の作ったやつ、味みて頂戴!」

「私は愛情で勝負だからネ!」

「アハハッ!」。


明るい笑顔があちこちで溢れている。

1月に開催された「第9回しみず・ふるさとの味コンクール」の会場だ。

ずらりと並んだ自慢の手づくり料理たちは壮観。

清水町はイモや豆等の農産物、牛乳や牛豚肉等の畜産物が豊富な町だが、その豊かさと質の高さを再認識。


新しい味付けの「白菜の中華風漬物」お父さんが作った「豆豆な豚」、小豆のあんが優しい「カボチャ饅頭」、「ゴボウとソーセージのバルサミコ風味」はおしゃれな感じで。

中でも感動したのは小学生の姉妹の作品「おばあちゃんと作ったにんじんケーキ」。

人参の自然な甘さで栄養たっぷり。その上「おばあちゃんと作った」と聞くとどこかホロリとくる。


これらのメニューの一部は3月の清水町の学校給食に取り入れられたそうだ。

全道的にもニセコ町や旭川市など、農村のおかあさんたちの手づくり料理を披露する機会が増えている。

九州ではそれを観光客にふるまって代金をいただく取組みが始まっていると聞いた。


 農村の暮らしの中で培われた「ふるさとの味」を様々な形で広めることが、大人も子供も健康になり、素材の良さと料理人への感謝の気持ちを醸成しつつ「マチ」も「ふところ」も豊かになる…

そんな可能性を強く感じている。


(2005年4月)

「畑作の未来」

畝きりの様子

「ご職業は?」と尋ねられ、「畑作農家です」と答える。

すると、「それって何を作るお仕事?」と戸惑う人がほとんど。

相手が道外に住んでいる人なら、なおさらだ。


広い農地を使い、小麦、ビート、ジャガイモ、豆類などの穀物やイモ類を生産する「畑作農家」という職業は、この日本では特殊なのだ。


「農薬とか化学肥料とか農業を悪者にしたがるけど、おれたちがソーラーパワー を食糧に変えているんだから、ほんとすごい仕事だぞ」。

ここ十勝に暮らせば、この仕事に誇りを持っている人が多いことに気づく。

太陽の光を、土壌中の水分と微生物を使って人間が使うエネルギーに変換する仕事。

畑の石を拾い、土を耕し、草を抜き、面倒でも毎年植える作物を変える「輪作」を続ける。

時代が変わっても、土の力を保つための地道な努力は変わっていない。


今、この畑作農家が岐路に立たされている。


来年から制度が大きく変わり、高収 益な野菜などへの転換が迫られている。

さらに、オーストラリアなどとの農業交渉の行方によっては、壊滅的な打撃も想定される。


 ようやく「スローフード」「地産地消」という言葉がなじんできて、道産小麦を 使ったパンなども出てきた。

そんな小さな芽が、国際情勢に押し流されてしまうの はもったいない。

「きょう、何を食べるか」。その選択に作物の未来がかかっている。


(2006年12月)
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