<小豆のおいしさ>
舌ざわりと渋みが影響
~香り、貯蔵条件や調理・加工方法によって風味も変わる~
?北海道立十勝農業試験場生産研究部主任技術研究員 加藤 淳 氏
でん粉質の豆類
小豆は日本人になじみの深い食材で、古くから民間療法では薬として使われ、今日では和菓子や赤飯などの原料として親しまれています。小豆の主成分は炭水化物(約59%)であり、その大部分がでん粉です。小豆全体の50%を占めるでん粉に次いで多いのがタンパク質であり、20%前後含まれています。しかし、脂質は2%程度しか含まれておらず、同じ豆類でも大豆の約10分の1と非常に少ない含有率です。小豆が「でん粉質の豆類」に分類されるゆえんです。
あん粒子は子葉細胞が単離したもの
調理や加工過程で加熱されることにより、でん粉は膨潤・糊化しますが、のり状とはならずに小豆の子葉細胞の内部に閉じ込められています。あんの本体であるあん粒子とは、この膨潤したでんぷんを含む細胞が一つ一つバラバラになった状態のものです。 このあん粒子の大きさや性質が、和菓子やあんなどの小豆製品を食べたときの舌ざわりや食感に大きく関与しています。舌ざわりはあん粒子の大きさで決まる
舌ざわりは、食物のおいしさを左右する重要な要因です。特にあんの場合、舌ざわりは重要となります。
一般に、小豆のあん粒子は50~250ミクロンの間に分布しています。この中で、好ましい食感とされるのは、75~150ミクロンの間にあるあん粒子です。
小豆の粒大(百粒重)が小さな普通小豆からは、平均粒径が100ミクロン前後のあんができます。これが一般的なこしあんで、滑らかな舌ざわりが感じられます。
一方、粒大の大きな大納言からは、平均粒径が大きい120ミクロン程度のあんができます。粒径の大きなあんでは、舌ざわりがざらついています。
私たちの舌は、このあん粒子の平均粒径10ミクロンの違いを感知することができます。人間の舌は実に精密な感覚器官なのです。 昔から、普通小豆はこしあんに、大納言は小倉あんに用いられてきましたが、あん粒子の大きさから考えても、理にかなった用途ということができます。
渋みの成分はタンニン
小豆を調理する過程では、種々の成分が溶出してきますが、この中には「渋」のように、多く含まれると製品の食味や加工適正上好ましくない成分も存在します。このため、製あんを行うに当たっては通常、煮熟過程で煮汁を捨てることにより「渋きり」が行われます。この「渋」の原因物質であるタンニンの含量は、小豆の品種や産地、栽培年次によっても異なるのです。
小豆の品種によるタンニン含量の違いについて比較すると、「エリモショウズ」をはじめとする普通小豆よりも、「ほくと大納言」などの大納言ではタンニン含量が低い傾向にあります。一方、近年輸入量が増大し、小豆の国内消費量の約半分を占めるまでになった中国産小豆では、道産小豆に比べタンニン含量が高い傾向にあり、特に「東北小豆」や「華北小豆」では著しく高い値となっています。
タンニン含量には栽培地や収穫年次によっても変動がみられ、同じ品種を道内で栽培しても、場合によっては一割以上の違いを生じます。この要因としては小豆の登熟期間(開花後の成熟期間)の気象条件が挙げられ、この間の日照時間が長いとタンニン含量は高くなる傾向にあります。したがって、年次間や産地間で見られるタンニン含量の変動は、登熟期間の気象条件の差に基づくものと考えられます。
小豆の風味は何で決まる?
小豆のおいしさには「風味」が影響すると言われます。「風味」に関与する要因とは何なのでしょうか。小豆子実の種皮内層部分に存在する揮発成分は、加熱されることによって種々の香りを生成します。
この中には「マルトール」と呼ばれる小豆特有の「甘い」香りを発する成分も含まれます。しかし、「風味」は単にこれら成分の量や種類のみで決まるのではなく、貯蔵条件や調理・加工方法によっても異なります。中国産小豆のようにタンニン含量が高い場合には、通常「渋きり」を二回以上行うため、一回でも十分な道産小豆に比べると「風味」の低下は大きくなります。
もちろん、品種や産地による違いも大きく影響します。小豆のおいしさとは、舌ざわり、呈味成分、香り、色などが総合的にもたらすバランスによって形成されており、これらすべてが「風味」の構成要素と言えます。
ニューカントリー 2006年6月号>